湘南後継者物語
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日常生活で生きる鎌倉彫を創っていきたい

〜漆芸七代目・鎌倉彫四代目 松永匠一(35)〜


 漆芸七代目・鎌倉彫四代目の松永匠一さんは、荏原天神近くの鎌倉市二階堂で鎌倉彫の技術研鑽に励む若き職人だ。匠一さんの家は、もともとは代々漆師の家だった。初代〜三代目までは静岡で宮大工などしながら、漆塗りをし、四代目が鎌倉に移り住んで仏像の漆塗りをし、鎌倉彫を始めた。匠一さんは、漆師としては七代目、鎌倉彫としては四代目に当たる。そんな匠一さんは、幼い頃から鎌倉彫を見て育ってきたが、刀を握ったことも、漆を塗る刷毛を持ったこともなかった。また、親からも後を継ぐようにも言われたこともなく過ごし、鎌倉彫にはそれほど興味がなかったという。それでも大学卒業時には、働くか、鎌倉彫をするかを悩んだが、働くことを選び、印刷業界に就職した。働き出して2年、匠一さんは、趣味にと漆塗り教室に通いだした。「鎌倉彫といえば朱塗りをイメージされると思いますが、この朱の漆塗りの技法以外にも塗りの技法は、何百通りもあるんです。漆塗りの奥深さを知り、もっとこの漆塗りを極めたいと思ったのがきっかけなんです」と語るように、漆塗りから鎌倉彫の世界に引き込まれ、30歳のときに印刷会社を退社し、鎌倉彫の世界に身を投じたのであった。

鎌倉彫


 実は、この鎌倉彫、基本的に『彫り』と『塗り』の分業で作業が進められる。『彫り』を専門とする『彫師』と『塗り』を専門とする『塗師』に分かれているのである。「鎌倉彫の作品を決めるのは、『彫り』ですが、作品を生かすも殺すも『塗り』だと思っています。分業だと、『彫り』と『塗り』の間でどうしてもズレが出てきてしまいます。自分の思い通りの作品を作るには、やはり両方取り組まないといけないと思ったからです」と語るように、匠一さんは、『彫り』と『塗り』の両方を取り組んでいる。匠一さんの父も、両方取り組んでいるのだが、匠一さんは、父の下ではなく、『彫り』と『塗り』ともに専門の親方について修業した。


 『彫り』は、一人前になるまでに約5年かかるという。ただし、それは『彫り』専門でやっている場合であって、『塗り』もやっている匠一さんにとっては、30歳にして真っ白な状態から『彫り』を始めたので、まだ一人前と胸を晴れる状態ではなく、悪戦苦闘しながら修業している段階だ。その『彫り』については、「父がいるにもかかわらず受け入れてくれた親方には本当に感謝しています。親方の下で学び、ただ新しいものを追求するのではなく、親方が守る伝統工芸のスタイルを守り、その延長線上にやっていこうと思っています」と語る。しかし、当初は、やはり売れることが大事だから、伝統的なものよりも売れ筋のものを作るべきだと考えていたという。それが親方の下で、『彫り』を学ぶうちに、親方を通して鎌倉彫の伝統の良さに気づき、「どうすればできるのか結論は出ていませんが、東京のギャラリーの売れ選と鎌倉彫の伝統的な姿を融合したい」と語るように、親方のスタイルを継承・発展させていきたいと思うようになった。


 『塗り』は、一人前になるまでに約10年かかるという。「漆は本当に奥が深いんです。塗り方の技法の種類だけでなく、天然の植物であるが故に漆の乾きや色の出方など、その日の環境によって大きく変わってしまいます。漆の本質を理解するのは本当に難しいんです。だからこそ、とてもやりがいを感じています」と語るように、匠一さんの鎌倉彫を始めたきっかけが『塗り』なだけに、『塗り』を語らせるとより一層熱を帯びてくる。親方からは、「この塗った漆が5年後、10年後どうなっているかを考えながら塗るように」と指導を受け、漆の特性を最大限に生かした『塗り』を心がけている。この『塗り』の際に、最も気をつけているのが、「ほこり」である。なぜなら、「ほこり」が付くと完成が悪くなるからだ。従って、「ほこり」が立たないように、片付いた部屋で静かな動作で塗りを行っている。しかし、「ほこり」だけでなく、天候・気温・湿度などでもその出来が大きく左右されるので、漆の本質を理解しようと、漆と対話を重ねる毎日だ。




 『彫師』・『塗師』と分業で行われる鎌倉彫の世界で、両方を取り組むことについて、「どっちかだけの方が、楽なのではないかとか、両方とも中途半端なんではないかと悩むこともあります。しかし、両方やることで、思い通りの作品ができる。特に『塗り』を生かした『彫り』ができる喜びがあります。だから両方取り組みます。ただ、とにかくまずは『彫り』のスキルを上げ、鎌倉彫の伝統工芸の下地をしっかりと身に付けることが、目下の課題です」とその苦労の一端を語る。そんな匠一さんの夢や願いは、鎌倉彫の伝統工芸と売れ筋の融合と、日常生活で長い間使われる作品を作り出すことだ。「漆は、使い込むほどに良さが出るものです。鎌倉彫は、長持ちするものなので、飾るだけでなく、ぜひ日常生活で使いこんで、その味を楽しんで欲しいです。日常生活で長い間愛され使われる作品を作ろうと考えています。作る際、日常生活で使われることを意識しながら、『彫り』や『塗り』を行っています」とその思いを静かだけれども熱く語った。


 本来分業で行われる世界で、両方同時に取り組むことは大変なことだろう。しかし、ぜひ鎌倉彫の伝統工芸の下地を生かしながら現代にマッチし、日常生活で使い続けられるものを作ることに挑戦し続けて欲しいと願いながら、自宅にある鎌倉彫のお盆をお盆として使ってみようと思った。

取材:エビケン
TEXT:エビケン
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