「記憶の風景」を撮る。Close Up8月のスペシャルインタビューでご紹介した、鵠沼海岸在住の写真家、川廷昌弘さんご本人による「懐かしい場所・記憶としての湘南の風景-」最終回。11月17日(土)から開催の平塚市美術館主催のワークショップ「懐かしい場所・記憶として湘南の風景」(全3回)で取上げる大磯について、川廷さんの「写真に対する想い」と共にご紹介します。
次は大磯です。ここでモダニズムの時代に描かれた風景は意外とありません。あえて上げるなら、黒田清輝の「大磯鴫立庵」1896年、原田直次郎「海辺風景」1897年などではないでしょうか。よってこの地では、自ら心に描く湘南原風景を切り取ってみるには面白い場所だと考えて、ワークショップの撮影地に選んでみました。
ポイントは松本順が創設した日本で最初の海水浴場である照ヶ崎、伊藤博文を始めとした、明治の元勲たちの夢の跡である、湘南の中ではスケールの大きい別荘銀座、そして東海道の松並木。味わい深いのは島崎藤村邸、1号線からそれた東海道の旧道の町並み。大磯郷土資料館が作成した「なつかしの風景」という冊子に写る写真に多くのアイデアの源泉がありますが、例えば照ヶ崎では板子で波に乗っている写真があります。
関東大震災で地形が変わり、その後漁港の堤防が作られ、今ではすっかり変わり果ててしまった照ヶ崎ですが、先日の台風の時にその写真に良く似た感じでブレイクするポイントがありました。もちろん、そこは岩場でサーフィンは出来ないと思いますが、板子に乗った子供たちが目に浮かぶような思いでした。大磯でも、やはりそんな気分で「記憶の風景」を表現してみたいと思います。
さて、ザックリと僕の写真活動の目線で語ってきましたが、「懐かしい場所・記憶としての湘南の風景」というワークショップのイメージができましたでしょうか?きっと皆さんの心の中にある原風景、人それぞれ、様々なイメージだと思います。今やデジタルが主流となり、誰でも撮影したら簡単に出力できる時代です。しかしだからといって心に浮かぶ映像まで同じはないでしょう。
写真は正直な表現だと思います。まず目に飛び込んで来た被写体を感じたままに撮る。構図をしっかり意識せずに自分の感性で切り取ってしまう。写真は現行犯であり、出会い頭であり、偶発です。そして何よりも記録です。この文章を書いてみて実感したのですが、これからも僕は原風景を求めて撮影を続けていくように思います。
今ある風景もいつか無くなる。阪神大震災で極端な経験をしていますが、今ある風景で「記憶の風景」という作品作りをしているつもりでも、将来その写真は、きっとあの頃はこんなものもあったんだ、という記録的なものにもなっているでしょう。