2004年夏に23歳でイタリアに渡った茂垣さん。
「横浜で勤めていたレストランで「ヨーロッパ旅行するなら10日間夏休みをあげよう」という計らいがあり、イタリアへ行きました。旅行中立ち寄った、ローマにある一軒のレストランの味が帰国後も忘れられなくて、実際に働いてみたくなったんです。でも、イタリア語が全く話せなかったので、現地でまず1ヶ月半ほど語学の勉強をしました。片言くらい話せる様になった頃、例のお店にまず食事の予約を取りたいと電話を入れたんです」
ところが「予約は一杯です」と断られ、
「はい、そうですか・・・と電話を切ったら勿体無いと思い、何の前ぶれもなしに『自分はこの店で働きたい!』とお願いしたんです。つたないイタリア語でしたけど。粘った末『じゃあ、話しだけでも聞くからお店に来なさい』と約束は取り付けたものの、当日行くと『シェフは留守だし、そんな話は聞いてないよ』と。会えるまで数日通い続けましたね」
粘り強い交渉が叶って、いよいよ面接となるが『雇うことは出来ない。でも研修ならOK。ただしお給料なし』ここから、茂垣さんのイタリア修行がスタートする。
すぐに茂垣さんにチャンスが訪れる。
「シェフパティシエが辞めてしまい、後任が決まるまで誰か出来ないか…と。僕は日本に居た時にお菓子やパン作りの経験があったので『ちゃんとお給料出してくれるなら引受ける』と交渉しました。これは一つの転機でしたね。お店のボスであるシェフは『君は日本から来たのだから、まずはイタリアの食材を知る所から始めなさい』と様々な食材を味わう、いわば訓練を勧められました。お店で扱う食材は、みんなでワイン片手に一口ずつ食べて吟味するんです」
お店だけでなく、茂垣さん自身も食べ歩きする中で、次第に豚肉の加工品に興味を持ち始めた。
「例えば、サラミ・生ハムは塩や香り、熟成の加減で地域によって味が全く違います。イタリアで食べた時に『美味しい!なんじゃこら!』と単純に感動したんです。そこで、出入りのお肉屋に頼んで、レストランに出勤する前に手伝わせもらい、時間を見つけては勉強していました。」
取材前にパスタとサラダで昼食。優しい味は茂垣さんの人柄そのもの。
美味しいものがあれば、実際に生産者のもとに足を運び、仕事を見て話を聞き、その町で食べ歩きをする。
「贅沢は出来ませんが、行ったついでにその町にあるお惣菜屋で、地元のサラミとチーズをパンに挟んだものを食べる。そこにジェラートとコーヒーも付けますが、それでも全部で1000円以下。地元の素材を食べた満足感も得られます。毎回レストランに行くわけにもいきませんでしたので」
イタリアでは街中に何軒もジェラテリアがあり、味も店ごとに全く違う。食べ歩きを続けていくうちに、ある1軒のお店を知り、電話で訪問したいと告げると、とても丁寧に対応してくれたという。
「そのお店の方は仕事で日本に来た経験もあり、日本人が訪ねてくれて嬉しいと。親切にジェラートの話を沢山してくれただけでなく、彼が作るジェラートは一度にカップ3杯も食べれてしまうほどバランスも良くできていて、本当に美味しかったんです」
その後、茂垣さんが日本への帰国を意識し出した頃「ジェラートを本格的に学びたい」という想いが強くなり、無理を承知で頼みに行くと
「じゃあ君が覚えるまで居ていいよ、と言っていただけました。その師匠から渡されたバラバラの資料をきちんとまとめて、彼の講義などで使う資料に作りかえる事から始めました。」
「最初に教わったのは『食材を理解すること』。自分が目指す食感や味の好みの物を作るには、材料となる食材の事をよく知っていないといけません。例えば、ショーケース内で柔らかく伸びの良いジェラートが作りたいとします。そうなるようなレシピを考案するには、食材の各成分の性質や含有量、食感に与える性質や糖度などを理解していることがまず必要です」
茂垣さんの見せて下さった資料には、実験レポートを思わせるほど、詳細な数字が並んでいる。
「後から知ったのですが、師匠はジェラートを広めるために色々な国に行ったり、学校で講議を行うなど、イタリアのジェラートの世界では有名なようです。でも気取らず陽気で、そんな人間性にも惹かれましたし、人との接し方などジェラート以外にも教わったことは多いです」
半年の修行を経て、2007年春に茂垣さんは日本へ帰国する。
(写真左)左からオリーブオイル・ピスタチオ・ベリーミックスのジェラート。 (写真右)「イタリアでの修行で自身も『食材マニア』になりましたね」
「アクオリーナでまず味わってもらいたいのがミルクです」ホームページでは乳牛がどんな環境で育っているのか、きちんと説明されている。
帰国後、豚肉の加工品を作る仕事を目指すが、思わぬ壁にぶつかる。
「肉の加工品は、資格等の条件が本当に厳しくて『明日から作ります』が出来ない分野だと判り、打ちのめされましたね。じゃあ、何が出来るかと考えたときに、ネットのみのジェラート販売を思いついたんです」
ここから、茂垣さんの食材集めが始まる。
「まず、ジェラートの味を左右する牛乳は30種類以上試しました。牛乳の味は、品種でというよりは「エサと育て方」で決まると思います。各牧場の事情もありますから、値段の高さ=美味しいとは言えません。確かにアクオリーナの商品は値段設定が高いかもしれません。でも、売る事だけを考えて材料の質を妥協したくなかったし、自信のある食材しか扱いたくなかった」
アクオリーナのHPには、材料の情報が全て公開されている。
「隠す必要もないし、作り方などは公開してもいい。それが本来あるべき姿だと思っています。健康な食材を使い、食材の味をきちんと引き出してあげれば、美味しいものは出来るはずです」
実は、年明けから再びイタリアに戻る予定の茂垣さん。
「滞在先はウンブリア州のレストランです。戻るからにはただ勉強、というのではなくさらなる食への理解、技術の向上など課題はたくさんありますが、何よりも生活を楽しみたいと思っています。今のお店のお客様からは『イタリアにいるからこその食の情報をブログなどからきちんと発信するように』という宿題をいただいています。イタリア時代から色々な人に助けてもらっている事。これが自分にとって一番の財産ですね」