みかんは、神奈川県の生産果実第一位の地域資源であるにもかかわらず、そのことは一般的に知られていません。海外からの輸入生産物に押され、価格が低迷、その結果、若年層の収納意欲が低下し、後継者不足により生産者の平均年齢は65歳を超えるなど高齢化の一途をたどっています。農業所得の低下が後継者不足となる大きな課題です。また、みかん畑は手入れを怠ると2~3年で荒廃化が進んでしまいます。一度荒廃してしまった畑は、イノシシやサルなどの餌の絶好の供給場所や隠れ家になってしまい、鳥獣被害の勝台につながります。また、産業廃棄物などの不法投棄などで周辺の景観や環境悪化の原因となっています。
それは、日本の農業の課題そのものがそこにあり、残念ながらその環境は変わっていません。
本来地域で取り組むべき課題ではありますが、対象地域である大磯町・二宮町では、生活圏の中にあるみかんということで危機意識がなかなか共有しづらいことも課題のひとつです。
通常のみかん狩りは、農家は手を休めて対応しなければならず、労働生産性が悪く衰退傾向です。また、オーナー制も農家の労働集約や収入源になっていますが、オーナーが1本の木から100㎏前後のみかんを収穫するのに1日では収穫しきれないことや、高所に上る危険・他のみかんの木の実を採ることを防止するために1日帯同しなければならず、みかん狩りと同様、労働生産性が悪いです。従って、新しいみかん狩りの仕組みづくりや付加価値のある加工品を製造し、新たな都市型農業のあり方として、課題解決策を探る必要があります。
連携のある神奈川県農業技術センターより依頼があり、大磯・二宮地区のみかん農家のサポートと加工品の製造販売を組み合わせたプログラム開発に着手しました。平成21年6月(財)中央果実協会から事業委託を受け、同年12月、二宮の井上農園に湘南スタイル有志20名で視察に行き、みかんの木パートナーシッププログラムを構築、平成22年度より事業を開始しました。
平成20年より、茅ヶ崎市との協働事業である農業ポータルサイト「おいしい茅ヶ崎」の運営開始をきっかけとして、メンバーが同一テーブルに立つことが出来る「食と農」をテーマに進めることが出来るOJT事業として最適だと感じました。
平成22年事業実施中に「かながわビジネスオーディション」にエントリー、奨励賞・コミュニティビジネス賞・日本経営士会賞の3賞を受賞。また、同年、神奈川県ボランタリー活動推進基金21の「協働事業負担金」事業に採択され、4年間の協働事業がスタートしました。
本プログラムが地域資源を「ひと・もの・こと」としてまとめ、地域コミュニティ創出事業として、行政関係に農業支援プログラムとして評価されたことは、後のPJ作りに役立ちました。
みかんパートナーシッププログラム:農家の労働力軽減・農業付加価値(規格外みかん・摘果みかんの活用)の創出とパートナーの食育体験・みかん狩りの双方向性プログラム。という仕組みを形成でき、毎年プログラムに参加してくれるリピーターも数多くいます。
みかんと摘果みかん・規格外みかんの従来廃棄を余儀なくされていたみかんに光りをあて、それを加工品としてプログラムに組み入れ、加工品の製造リスクをなくし、運営を軽減できている点が、大きなポイントです。
発足当初からのごく限られたコアメンバーが今も活動の基盤になっています。みかん狩りに関してもパートナーが喜ぶ「おもてなし」は、というコンセプトのもと、応対する農家・スタッフがそれぞれ役割を担い、共に喜ぶ仕組みを創っています。
<プロジェクト参加メンバー>
農家:大磯町1農園・二宮町2農園・湘南JA・農業技術センター
湘南スタイル:みかんPJリーダー及びスタッフ2名外、ボランタリースタッフ15名
地元有志数名、学生ボランティアスタッフ(不定期)
参加農家は、消費者との触れ合いに喜びを感じ、労働力の大幅削減と加工品開発による収益増があり、効果を感じ、他の農家への波及を考慮し、平成25年組合を設立、効果を感じています。
参加農家の所得向上・労力軽減・活力・仕組みへの希望は満されてきていますが、高齢化による耕作放棄地の増加や鳥獣被害はまだ拡大傾向にあります。不法投棄場所は、解消傾向となってはきているが、具体的な解決までには至っていません。
大磯・二宮地区のみかんは2,800t。県内全域の10%であり、大部分を生産する小田原を中心とする西湘地区の行政から、みかん農家の窮乏も同じで、県全体の課題であることが解ってきました。
それを受け、平成27年12月5日、東大みかん愛好会・JTBと連携し、東京駅から小田原駅まで6両編成の「みかん観光列車の旅」を実施しました。新たな課題として、農道が狭く、観光バスが入れる農園は少なく、駐車場がないので、みかん狩り観光という形での誘客も厳しいことが判明しました。みかんは、全国の大量生産地である愛媛・熊本・和歌山県などに押され、生果みかんでの販売競争では厳しいです。大型マーケットを抱える都市型農業の強みは、農家・地元民と消費者の触れ合いと「ひと・もの・こと」すべてを活用するプログラムの精度を高めていく必要があります。
来訪する人も迎える側も、楽しんでこのプログラムに参加という気楽な活動へと柔軟に活動の空気を転換させることが必要で、ここまで築いてきたプログラムですが、再度、新たに参加したい人の目線で、プログラムの再構築をしていきたいです。